テーマ判例コラム「給与ファクタリング」        最高裁令和5年2月20日判決

ファクタリングとは、企業の売上債権の譲渡を受けて債権管理を行うサービスのことです。

 企業が他社に対して債権を有する場合、債権の支払期日までに売掛先が倒産するなどの事情により回収不能となるリスクが伴うことになります。そこで、債権回収のノウハウを有する企業に債権を譲渡し、一定の手数料と引き換えに債権の早期かつ確実な回収を図るのがファクタリングの一例です。実際の取引社会では、債権譲渡を伴わず回収の保証のみを行う保証ファクタリングなど、様々な形式のファクタリングがあるようです。

 ところが、債権買い取り業者などを名乗る事業者が、消費者をインターネットやSNS上で勧誘し、「給与ファクタリング」と称して給与債権買取の名目で金銭の貸し付けを行う事例が生じています。令和2年から令和3年にかけて国民生活センターと政府広報が相次いで注意喚起を公表しており、コロナにより困窮している消費者をターゲットとして「給与ファクタリング」が増加しているようです。

 令和5年に、給与ファクタリングが貸金業法及び出資法上の「貸付」に該当し、登録を受けずに「給与ファクタリング」を行うことは違法であるということを明確に示す最高裁判決が出されました。今回はこの判決を紹介したいと思います。

【事例・判決】

 最高裁令和5年2月20日判決は、貸金業法の登録を受けずに「給料ファクタリング」名目で約2700万円の貸し付けを行った者に対する貸金業法違反被告事件です。被告人は、法定利息の10倍近い利息を受領したことによる出資法違反にも問われています。

 最高裁は、被告人の上告理由は刑事訴訟法が定める上告理由に該当しないと判断しており、具体的な判断を示すことなく上告棄却することも可能でしたが、職権であえて以下の判示をしました。

 最高裁の認定によると、被告人は労働者である顧客から、給料債権を額面の約6割の金額で譲り受け、同額の金銭を顧客に交付していました。顧客は、給料の支払日までに額面額満額を支払えば給料債権を買い戻すことができるが、買戻しをしない場合は被告人から顧客の勤務先に対し債権譲渡通知がされることになっていました。

 被告人は、上記取引について、給与債権の譲渡にすぎず貸付には該当しないと主張していました。

 これに対し、最高裁は、給料は労働者に直接支払わなければならないため(労働基準法第24条第1項)、給与債権を債権譲渡したとしても譲受人は使用者に対し給料の支払いを請求できないこと、被告人の顧客は使用者に債権譲渡通知されることを避けるため事実上、自ら債権を買い戻さざるを得なかったことを指摘し、「給料ファクタリング」と称する取引は顧客からの返済を予定した貸付であると判示しました。

【解説】

 本判決のポイントは、最高裁が利息の高低に特に言及していないこと、そして給与の直接支払いの原則により給与債権の譲渡というスキームが原理的に成り立たないと指摘している点です。

 地裁において同様の判断をした判決は既にありましたが、最高裁が上記の判断を示したことにより、給与債権譲渡の名目で実質的に融資を行う事業者は、貸金業法の登録をせずに貸金業を行う業者(いわゆる「闇金」業者)として利息・手数料の額にかかわらずすべて違法であることが明確になりました。

 貸金業法の登録を受けつつ、法的に問題のある「給与ファクタリング」を行う業者は想定しがたいですが、貸金業者の登録は金融庁の下記サイトで確認できるので、闇金の疑いがある業者についてはこちらで確認するとよいでしょう。

登録貸金業者情報検索入力ページ (fsa.go.jp)

 なお、本判決に関しては、日本司法書士会連合会が令和5年3月10日に会長声明を発出しており、給与ファクタリングに代わる新しい脱法行為として、後払い現金化、商品券買取現金化等の手口が生じていることも指摘されています。日本貸金業協会もこれらの様々な手法による違法な貸付けについて注意喚起を行っています。

 日本司法書士会連合会 | 給与ファクタリングを貸金業法等の違反とした最高裁判決を受けての会長声明 (shiho-shoshi.or.jp)

【お知らせ】[注意喚起]悪質な金融業者にご注意! | 日本貸金業協会 (j-fsa.or.jp)

 インターネット、SNSの普及により業者と直接会わないまま金銭を借りることが可能になり、闇金に関わってしまうリスクも増えていると思われます。加えて、コロナ禍による家計への打撃もあり、闇金トラブルは増加しているようです。

 闇金業者からの返金請求は基本的に違法であり、多くの場合は業者に対する支払いを拒絶することができます。闇金に関するトラブルに巻き込まれてしまった場合は、法律の専門家である弁護士への相談もご検討ください。

令和5年12月23日  文責 弁護士 増﨑勇太

プラスワン法律事務所

※この解説は公開されている判例をもとに作成されたものです。判例で認定された事実と、実際に生じた事実が異なる場合がありうることはご留意ください。

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