テーマ判例コラム「飲酒運転と懲戒処分」その2  最高裁令和6年6月27日判決

 以前、本ホームページで「飲酒運転と懲戒処分」をテーマとして最高裁令和5年6月27日判決(以下「令和5年判決」といいます。)を紹介いたしましたが(前回の記事はこちら)、奇しくもこの判決からほぼ1年後の令和6年6月27日に再び飲酒運転に対する懲戒処分についての判決が出されました。今回の判決も、令和5年判決と同じく、飲酒運転に対し退職金の全部を支給しない懲戒免職を認める非常に厳しいものです。判断内容は令和5年判決と重なる部分も多いですが、改めて最新の判決をご紹介いたします。

【事例】

 本判決の事案は、Y市の公務員(総務部課長)であったXが、飲酒運転を理由として懲戒免職処分を受けた事案です。Xは、午後5時30分から午後10時30分頃にかけてマンションでビール、酎ハイ、発泡酒を350ml缶で計7本飲みました。同日午後11時頃に自宅に帰るために自動車を運転したところ、同マンションの立体駐車場内で他の駐車中の自動車に接触する事故を起こしました。Xは事故について誰にも伝えないまま運転を続け、帰宅中の路上でさらに道路の縁石に自動車を接触させる事故を起こしています。そして、Xは翌日朝に事故を起こしたことを警察に通報しましたが、当初は警察に対して事故を起こしたのは飲酒した前日夜ではなく、通報した朝であると虚偽の説明をしています。

 Y市は、Xを懲戒免職処分としてうえで、退職手当1620万4488円の全額を支給しないとする処分をしました。なお、Xは本件以前に懲戒処分を受けたことはありません。

【判決の概要】

 原審の大阪高裁令和4年7月13日判決は、本件事故が物損事故にとどまること、Xが事故直後ではないとしても関係者に連絡し被害弁償を行ったことを理由として、退職金の全部を支給しないとする本件処分は社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権を逸脱濫用するものであるとして退職金全部不支給処分の取消しを認容しました。

 一方で最高裁判決は、Xの運転が重大な危険を伴うものであったこと、事故後の対応も悪質かつ不誠実であること、Xの行為(飲酒運転及びその後の対応)は公務に対する住民の信頼を損なうものであることなどを理由として、退職金全額を不支給としたことは裁量権を逸脱しないとし、原審を取り消し退職金全部不支給処分の取消請求を棄却しました。

【解説】

 本件におけるXの飲酒量や事故後の対応を見ると、Xは事故当時に少なからず酩酊していたのではないかとも思われますし、少なくとも酔った状態で運転していることは明確に意識していたようです。このような悪質な態様の飲酒運転については、前回紹介した最高裁令和5年判決の判断に照らしても、退職金全部不支給はやむを得ないといえます。

 一方で、本件では岡正晶裁判官が反対意見を述べており、退職金が給与後払い的性格や生活保障的性格を有することや、本件事故が結果として軽微な物損事故にとどまり住民の信頼を具体的に害したともうかがわれないことからすれば、本件事故を理由に退職金を全部不支給とすることは処分が重すぎるとしています。岡裁判官は弁護士から最高裁裁判官に就任された方ですが、令和5年判決では学者から最高裁裁判官に就任した宇賀勝也裁判官が反対意見を述べており、興味深いところです(宇賀裁判官が他の処分との公平に照らした観点から懲戒処分の裁量権の範囲を論じているのに対し、岡裁判官は退職手当の給与後払い的な性格や生活保障的な性格に照らした被処分者の不利益という観点から懲戒処分の裁量権の範囲を論じています。)。

 いずれにせよ、最高裁が飲酒運転を理由とする退職金全部不支給を認める判決を続けて出している以上、下級審や地方公共団体の現場においても飲酒運転に対しては厳しい処分を出さざるを得なくなると思います。一方で、いずれの判決にも反対意見が付されていることからすれば、退職金全部不支給処分は慎重な判断のもと行われるべきという点は変わりません。この点、2つの最高裁判決の事例がいずれも飲酒量や飲酒運転の状況に照らしてやや悪質と思われる事案であり、過失による酒気帯び運転等とは異なるものであることは意識が必要と思います。

最高裁令和6年6月27日判決

最高裁令和5年6月27日判決

令和6年6月29日  文責 弁護士 増﨑勇太

プラスワン法律事務所

※この解説は公開されている判例をもとに作成されたものです。判例で認定された事実と、実際に生じた事実が異なる場合がありうることはご留意ください。

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