テーマ判例コラム「同性パートナー」 最高裁令和6年3月26日判決

 令和6年5月、長崎県の大村市が男性同性カップルに対し、続柄欄を「夫(未届)」と記載した住民票を交付したと報道されました。

 法律上の婚姻は戸籍法上の届け出によって効力を生じることになるため(民法第739条)、同性カップルを「夫」と住民票へ記載したことは法的に同性婚を認めたものではありません。もっとも、住民票の記載は地方公共団体が同性パートナーを夫婦と同視すべき関係と認めたことを示す重要な事情となりえるため、同性パートナーの事実婚関係を示す資料として行政手続や賃貸借契約、入院時の身元保証など様々な局面で活用できる可能性があります。地方公共団体が住民の権利擁護のためにこのような先進的な取り組みを積極的に行うことは素晴らしいことだと思います。

 ところで、近年の判決においても、性的マイノリティーや同性婚に関連する判断が非常に多く出されており、世間の耳目を集めています。代表的なものとしては、同性カップルが婚姻と同様の法的利益を享受したり社会的に公証を受ける利益を享受するための制度を何ら設けていないことが憲法24条2項に違反する状態であると判示した札幌高裁令和6年3月14日判決、性同一性障害者の性別変更について「生殖腺がないこと」等を要件とすることが違憲であると判断した最高裁令和5年10月25日判決、性同一性障害の診断を受けて女性として生活する公務員による女子トイレ使用を認めなかった人事院判定を違法とした最高裁令和5年7月11日判決があります。ごく最近にも、法律上の性別を男性から女性へ変更した者を父親とする認知請求を認めた最高裁令和6年6月21日判決が出されています。

 今回紹介する最高裁令和6年3月26日判決は、同性の事実婚関係であっても犯罪被害者給付金の対象となる「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当すると判断したものです。

【事例】

 男性であるXは、同じく男性である交際相手Aと平成6年ころから交際し、同居して生活してきました。

 Aは、平成26年に第三者の犯罪行為により亡くなりました。Xは、平成28年12月、自身が犯罪被害者等給付金支給法(以下「犯給法」といいます。)上の給付金請求権者である「婚姻の届け出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」(犯給法第5条1項1号括弧書、以下「括弧書要件」といいます。)に当たるとして、犯罪被害者遺族給付金の支給を申請しました。しかしながら、申請を受けた県公安委員会は、平成29年12月、Xは犯給法上の遺族に該当しないとして給付金不支給を裁定しました。

  Xが上記不支給裁定の取消しを求めたのが本件訴訟です。

【判決の概要】

 原審である名古屋高裁令和4年8月26日判決は、括弧書要件は「婚姻の届出ができる関係であることが前提となっていると解するのが自然」であるから同性パートナーは要件に該当せず、括弧書要件が憲法上の平等権等に反するともいえないと判断しました。

 これに対し最高裁は、「犯罪被害による打撃を受け、その軽減等を図る必要性が高い場合があることは、犯罪被害者と共同生活を営んでいたものが犯罪被害者と異性であるか同性であるかによって直ちに異なるものとはいえない。」として、括弧書要件は同性パートナーを含むと判断しました。そして、上告人と犯罪被害者の関係性が「事実上婚姻関係と同様の事情にあった」と言えるかについて判断させるために事件を高裁に差し戻しました。

【解説】

 上記多数意見に対し、今崎幸彦裁判官は反対意見において、遺族給付金の損害補填的性格に着目し、同性パートナーを遺族給付金の対象とすることを疑問視しています。

 反対意見では「(同性パートナーの死亡による)財産的損害、とりわけ扶養利益喪失を理由とする損害賠償請求権については、民法752条の準用を認めない限りにわかに考え難いというのが大方の理解であろう。」と記載していますが、少なからず疑問のあるところです。確かに、法律上の扶養義務の有無に基づいて法律婚と事実婚を区別する議論は想定できます。一方で、法律上の扶養義務の有無は、同性間の事実婚と異性間の事実婚を区別する理由にはなりえないように思えます。また、林道晴裁判官が補足意見において指摘する通り、同性パートナーを失うことによる精神的損害の慰謝料は観念できるのであって、損害の有無という観点から同性間の事実婚と異性間の事実婚を区別することは困難と思われます。

 また、反対意見は、「同性同士の関係において何をもって『事実上婚姻関係と同様の事情』と認めるかは、私はそれほど簡単に答えの出せる問題ではないと考えている。」としたうえで、十分な議論の無いまま個別法の解釈として同性パートナーの法的保護を探る本判決は「現時点においては、先を急ぎすぎているとの印象を否めない。」と指摘します。

 確かに、同性パートナーと単なる共同生活をどのように区別するのかというのは非常に難しい問題であり、国民の価値観や憲法解釈に関わる問題として国民の議論の十分な蓄積のもと検討されるべきというのはもっともです。したがって、事例判断である判決の蓄積によって同性パートナーの法的位置づけが決められてしまうことへの懸念も理解できます。ただし、立法が同性パートナーの位置づけを明確にしないことにより当事者に看過しえない不利益が生じているのであれば、やはり司法は立法に先んじてでもその不利益を解消する法的解釈を探るべきではないでしょうか。

 かつて、異性間の事実婚に法的効果が認められるようになるまでにも、非常に多くの議論がありました。その時も、最初は裁判例の中で事実婚に一定の権利性が認められ、次第に立法において事実婚の位置づけが明確化されていくようになりました(事実婚に法律婚と同様の効果を認める法令として、本件で問題となっている犯給法括弧書要件のほかに、健康保険法第3条第7項、国民年金法第5条第7項、育児介護休業法第2条4号等があります。)。

 本判決をはじめとする一連の判決によって具体的な立法や法改正が進んでいるという情報は聞き及びませんが、大村市の住民票対応のような事例も出始めました。今後、社会においてより議論が深められることを期待したいと思います。

最高裁令和6年3月26日判決

令和6年8月2日 文責 弁護士 増﨑勇太

プラスワン法律事務所

※この解説は公開されている判例をもとに作成されたものです。判例で認定された事実と、実際に生じた事実が異なる場合がありうることはご留意ください。

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