テーマ判例コラム「X(旧ツイッター)」       大阪高裁令和2年6月23日判決

 皆さんは「ツイッター」のことを「X(エックス)」と呼んでいますか?ツイッターは令和5年7月25日「X」に名称変更をしており、すでに9か月が経過していますが、口頭で「X」という呼び方をしている人は私の身の回りにはまだおりません。メディアにおいても「X(旧ツイッター)」という呼び方が多く、「X」という呼称はまだ定着していないないかという印象です(このコラムではあえて「X」と記載してみます。)。それだけ「ツイッター」というSNSが社会に定着していたということなのだと思います。

 最近では岡口基一裁判官が「X」で不適切な投稿を行ったとして弾劾裁判により裁判官を罷免された事件がニュースとなっており、裁判官がSNSで発信を行うことの是非なども考えさせられるところです(この問題に関しては、岡口裁判官の弁護人を務めた伊藤真先生の記事のリンクを記載しておきます。)。

第344回 岡口弾劾裁判 | 塾長雑感 | 塾長雑感 (itojuku.co.jp)

 今回は、「X」に関連する判決ということで、名誉棄損に該当するツイートをリツイート(ツイッターにおいて他人の投稿を引用する形式で自己のアカウントから投稿すること。現在の呼び方では「リポスト」)したことが名誉棄損に該当するとして、損害賠償請求が認められた事案を紹介します。事件の当事者が著名人であったこともあり、この判決に対し「リツイートしただけで元ツイートに賛同する趣旨と理解するのは不当だ」という批判的なコメントも出ていたようです。

 果たして裁判所がリツイートを不法行為と認定したのは「X」に対する理解不足によるものか、検討してみたいと思います。

【事例】

 本件事例の原告は、地方自治体の知事及び市長の就任歴があり、退任後は弁護士やテレビのコメンテーターとして活動していた人物です。

 ジャーナリストである被告は、平成29年10月、自身のツイッターアカウント(フォロワー数18万人超)において、「原告が知事時代に自治体の幹部たちに生意気な口をきき、自殺にまで追い込んだ」という趣旨のツイート(以下「元ツイート」といいます。)をリツイートしました。リツイートの際、被告自身のコメントは付されておらず、元ツイートの内容がそのまま表示される状態だったようです。

 原告は同リツイートにより名誉を棄損されたとして、リツイートされた約2か月後に被告に対して110万円の損害賠償を請求する本訴を提起しました。なお、被告は遅くとも訴訟提起されたときには同リツイートを削除しています。

 元ツイートの内容について、原告から威圧的・侮蔑的な言動を受けたことを直接的な原因として自治体職員が自殺したという事実が存在しないことは争いがありません(被告は、元ツイートの趣旨は、原告が自治体職員に対し威圧的であったことが遠因となって、自治体職員の自殺事案が生じたという趣旨であると主張しています。)。

【裁判所の判断】

 裁判所は、元ツイートの内容について、一般閲読者の通常の注意と読み方を基準として解釈すれば、原告が自治体職員に生意気な口をきき、生意気な口の利き方をされた職員の中に自殺に追い込まれたものがいたという趣旨と解されること、したがって元ツイートの内容は事実に反するものであること(名誉棄損に該当すること)を認定しています。

 そのうえで、第一審(大阪地裁令和元年9月12日判決)は、名誉棄損に該当するツイートをリツイートする行為について「ツイッターが、140文字という字数制限のあるインターネット上の簡便な情報ネットワークであって、・・・簡易・簡略な表現によって気軽に投稿することが想定される媒体であることを考慮しても、何らのコメントも付加せず元ツイートをそのまま引用するリツイートは、ツイッターを利用する一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば・・・特段の事情の認められない限り、リツイートの投降者が、自身のフォロワーに対し、当該元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為と解するのが相当である。」として、被告に33万円の損害賠償責任を認めました。

 一方で控訴審(大阪高裁令和2年6月23日判決)は、「元ツイートの内容が・・・他人の社会的評価を低下させるものであると判断される場合、リツイート主がその投稿によって元ツイートの表現内容を自身のアカウントのフォロワーの閲読可能な状態に置くということを認識している限り、違法性阻却事由又は責任阻却事由が認められる場合を除き、当該投稿を行った経緯、意図、目的、動機等のいかんを問わず、当該投稿について不法行為責任を負う」と判断し、結論としては原審の判断を認容して控訴を棄却しました。

【解説】

 第一審、控訴審は、原告のリツイートが名誉棄損として不法行為に該当することについては判断が一致していますが、その法的構成が若干異なります。

 第一審は、リツイートが原則として「元ツイートの内容に賛同する旨の意思を示す表現行為」であり、「投稿者自身の発言ないし意見であると解される」から、「投稿の行為主体としてその内容について責任を負う」としており、リツイートした者が「投稿内容に対して責任を負うか」という観点から不法行為性を検討しています。

 一方で控訴審は、リツイートした者の目的に関わらず、リツイートによって元ツイートの表現内容さらに多くの者に拡散されたこと、すなわち名誉棄損の被害の拡大という観点から不法行為性を検討しています。

 あくまで名誉棄損に対する損害賠償請求権の成否という観点からは、重要なのは損害の発生の有無、すなわちリツイートによって人の社会的評価が低下したかという点です。仮に投稿者が社会的論評の意図や単に元ツイートをブックマークする意図でリツイートをしたのであっても、結果として事実に反する風説が拡散し、当事者の社会的評価を貶める事態が生じたのであれば(故意・過失の有無はともかく)違法に他人に損害を生じさせたものとして損害賠償責任を負うものといえるでしょう。特に本件の場合、元ツイートを素直に読んだ場合に読み取れる内容(原告が生意気な口の利き方をしたことを直接的な原因として自殺した職員がいること)が事実に反することについては争いがありません。原告の社会的評価を低下させる虚偽の事実を拡散することについて、拡散した者の意図によって違法性がなくなるというのは考え難いところです。したがって、ツイートした者の意図を問題としない控訴審判決のほうが法的整理としては正確であるように思えます。

 控訴審の考え方によれば、リツイートが不法行為に該当するのは元ツイートによる名誉棄損の被害を拡大する場合に限られることになりそうです。本件の場合、被告は18万という多数のフォロワーを有しており、リツイートすることによって元ツイートの名誉棄損表現をさらに多くの人に拡散した結果、原告の社会的評価を一層低下させたといえます。逆に、すでにインターネット上に広く拡散されている表現について、特段の社会的影響力がない一般のXユーザーがリツイートをしたとしても、名誉棄損が成立する余地は限定的と考えられます。

 このように判例を読み解いていくと、裁判所(特に控訴審)がリツイートを不法行為と認定したことは、リツイートの意味や仕組みをふまえたものだったといえそうです。ただし、本件の延長線としていくつかの問題を指摘しておきたいと思います。

 まず、本件は虚偽の事実の適示による名誉棄損が問題となりましたが、事実の適示にあたらない「侮辱」については異なる考え方をとりうる可能性があります。虚偽の事実の適示の場合は「拡散」されることにより社会的評価の低下が拡大することになりますが、侮辱的な言説の場合は「拡散」されなくともその言説が繰り返されることで被害者の名誉感情等の被害が大きくなるという考え方はありうるように思えます。このように考えれば、侮蔑的な言動をリツイートすることはより広い範囲で不法行為に該当しうるかもしれません。一方で、ツイート・リツイートの内容が侮蔑的であるかの判断は、当該ツイートがされた経緯や目的を考慮する余地があるとも考えられます。

 この点については、東京高裁令和4年10月20日判決が参考になります。同事件は、国会議員である被控訴人(被告)が、性被害を受けたと主張する控訴人(原告)を揶揄する複数のツイートに25回にわたり「いいね」を押したことが不法行為であるとして、損害賠償請求がされた事件です。控訴審判決は、原告の請求を棄却した原審判決を覆し、被告に55万円の損害賠償責任を認めました(報道によると令和6年2月に上告棄却により控訴審判決が確定。)。本件で「いいね」の対象となったツイートは、さしたる根拠もなく控訴人が本件性被害を受けたとの事実を否定し,控訴人らを揶揄,中傷するものと認定されており、そのようなツイートを「いいね」することが社会通念上の許容限度を超えて名誉感情を侵害する侮辱行為であるかが問題とされました。控訴審は、被控訴人がそれまでも原告に対する揶揄や批判等を繰返しており、控訴人の名誉感情を害する意図をもって「いいね」を押したことなど、「いいね」を押した経緯や目的も考慮して不法行為に該当すると判断しています。ただし、被控訴人が国会議員として11万人のフォロワーを有するなど影響力を有していたことも考慮されており、一般人による「いいね」が不法行為に該当する場合はなお限定的ではないかと思われます。

 最後に、「X」以外の媒体で名誉棄損表現等を拡散する行為について、本判決の理論が適用されるかという点も気になります。この問題は、最近報道でも注目されている、フェイスブック上で有名人を騙る「なりすまし広告」についてメタ社が損害賠償責任を負うかという問題や、GoogleMapの不当なクチコミについてGoogle社が責任を負うかというプラットフォーマーの問題にもつながりそうです。このメタ社やGoogle社の問題は実際に訴訟提起もされているようであり、今後の動向に注目したいと思います。

大阪高裁令和2年6月23日判決

大阪地裁令和元年9月12日判決(原審判決)

東京高裁令和4年10月20日判決

令和6年4月28日   文責 弁護士 増﨑勇太

※この解説は公開されている判例をもとに作成されたものです。判例で認定された事実と、実際に生じた事実が異なる場合がありうることはご留意ください。

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